【読む】中川智寛氏の論文  倉橋由美子「スミヤキストQの冒険」論

 立教大の院生の話が続くけど、築山さんの学年よりチョッと下であまり目立たない人に中川智寛さんがいた。個人的に話すこともあって修了後も連絡が途絶えなかった。心配していたものの無事に就職もできて先般まで福井大学にいたのが、今は地元の東海大学に落ち着けて良かった。福井大に行く前からしばしば論文を送ってくれたものだけれど、しだいに本数が多くなって驚かされつつも安心している。先日もいつものように数本まとめて送ってくれたけれど、もともと横光利一研究者が途中からバラエティに富んだ論文に様変わりしてきた。何でも書いてしまうほど実力を付けてきたものと喜ばしいかぎりだ。今回は名前も聞いたことのない井上傘園という戦前の作家の論や、読んだこともない現代の恩田陸の論が含まれている。

 ボクは横光はけっきょく肌が合わないと自覚してからは横光研究会からも抜けてしまったくらいだから、中川さんの肝心な横光論(のみならず他の研究者の論)も読もうという興味が湧かないままだ。でも幸い今回は倉橋由美子「スミヤキストQの冒険」論も含まれていたので、中川さんの論のお手並み拝見となったしだい。

 倉橋の「パルタイ」は初読ですごく感動した作品だけど、いま読んでも感心するものと信じている(ので未読の人には絶対おススメ!)。でも「スミヤキストQの冒険」は刊行された当時から興味を惹かれながらも、文庫化された際に読み始めたらすぐに幻滅した作品だった。表題から「パルタイ」と同工で共産党マルキストを皮肉ったものと察したものの、文章からして「パルタイ」のレベルから別人のようにヒドくなっているので読むに耐えなかったネ(その文庫は数年前に倉橋に興味があると言うパン君に上げてしまった)。

 

 それにしても中川さんが倉橋を論じるとは意外だけど、これからも倉橋を論じ続ける意欲があるそうで何より。それにしても中川論で知った「スミヤキストQの冒険」論の多いこと! 先日の三島の「卵」論ではないけど、こんなショーモナイ作品を論じる気になれることだけで驚きだネ(未読のものや感心しない作品は論じないというのがボクの立場)。中川論に付されている「要旨」を流用すれば、

 《党派性、文学(論)、戦争及び空間性という三点に焦点を絞り、論及した。》

ということになる。作品も読んでない身なので論文自体を評することはできないけれど、中川さんからも言及されている論文からも多くの未知のことを教えられたのは確かだ。現在溜まった横光論をいよいよ本にする作業に取りかかったそうだけど、次ぎは倉橋(と谷崎)が視野にあるとのことだから楽しみだネ。

 

 ラジオ放送大学の「文学批評への招待」(丹治愛・山田広昭)で二人称小説の例として倉橋の「暗い旅」の存在を知ったので、「二人称小説」に対する関心もあって先般この作品の文庫をゲットしたばかり。未読ながらいずれ読んだら中川さんの論も期待したいところ。倉橋つながりで言えば、最近「星の王子さま」の対訳本を辞書片手に読んでいるけど、対訳がオカシイ時は倉橋の翻訳本(宝島社)でチェックしているヨ。むかし三島由紀夫がヨーロッパ言語とは絶縁しないことが大事と言っていたことを、そろそろ後期高齢者になろうとする今になってやっと実践している形だネ。テレビ放送大学のフランス語の番組は何度も見て飽きたから見なくなっているけど、ラジオ放送大学は難しすぎるものの地デジのフランス語講座は見ているヨ(ハングルはテレビのみならず気付いた時に放送大学も見ているけど、いっこうに上達しないネ)。