新潮新書  鴻巣友季子  バフチン  望月哲男  『小林秀雄の言葉』

先日シュウメイ(佐藤秀明)の『三島由紀夫の言葉』という新潮新書を紹介した時に、新潮新書は聞いたこともないと記してしまった。
昨日出歩くので電車で読む本として適当な本を探していたら、鴻巣友季子『明治大正翻訳ワンダーランド』という新潮新書を見つけて自分のボケぶりに呆れた。
挟まっていたレシートを見ると、2006年6月に渋谷の紀伊国屋で買ったのが分かるから10年も前に出ていた新書だったのだ!
鴻巣さんという人は信頼すべき翻訳家だけではなく信用できる書評家でもあって、朝日新聞の書評を担当していた時にその切れ味を楽しんでいたものだ。
お粗末な新書が(広くはクダラナイ紙くず同然の本が)次々に出版される中で、彼女のこの新書は充実していているだけでなく楽しく読める。
目次を見るだけでセンスの良さ・読者のツカミ方がよく分かるので、その点では自信のあるボクでさえ驚くほど上手い。
例えば第6章の表題は「辛抱して読んでくれ!」というもので、トルストイ「復活」(松井須磨子のカチューシャの唄で有名)を翻訳した内田魯庵の言葉から取ったもの。
学生時代ロシア文学の授業で川端香男里先生(当時は川端康成の女婿になる前で山口姓だった)が、「復活」は宗教の宣伝のために書いたのでツマラナイと教えられたけど、翻訳していた魯庵にもよっぽどツマラナかったのだろう。
川端先生からはバフチンを教えてもらった衝撃は忘れない。
一緒に授業を受けていた望月哲男クン(北大教授)がその後バフチンの名翻訳「ドストエフスキー詩学」(ちくま文庫)を訳すことになろうとは!
この名訳は絶対おススメ! バフチンはスゴイ! それが分かる。

それはともかく、シュウメイのは三島の言葉だけでボクとしては不満だ。
とってもよく選び抜かれている言葉だからこそ、それについてのシュウメイのコメントや解説が欲しいところ。
それが全然なくて三島の言葉が羅列されていても飽きてくる。
それで自分が小林秀雄の言葉を選んでコメントと付すなら・・・と考え始めたら次々を小林の名言(迷言も)が思い浮かんできて、それについてボクの解説の言葉も溢れてきて止まらなかった。
でもシュウメイに倣って『小林秀雄の言葉』を編集する気は毛頭ないのは、それだけじゃ小林の文学世界への案内とはならないからだ。
シュウメイがどんな気持で三島の言葉を選んだのか不明ながら、これでは三島の文学世界への案内にはなりにくいだろうに。
しかしシュウメイに啓蒙的な意図があったとすれば、結果はともかくエライと思ってハンセイしてみた。
「量より質」をモットーに生きてきたので一般読者が眼中になかったけれど、小林秀雄が難解なイメージを抱かれたまま敬遠され続けるのを傍観していてはいけないかもしれない、と思い始めたものだ。
そんな殊勝な考えが浮かんだのもトシのせいかもしれないけれど、小林のお蔭でリッパな研究者になれたことを思うと、少しは恩返ししなくてはいけないかも、と感じている。
なにやら『小林秀雄が分かる』とか『よく分かる小林秀雄』(クダケ過ぎ?)という表題で、小林の世界への案内を残しておくべきだろうと思い付いた。
小林にはあまり知られていないとっても面白い発言があるので、それを並べただけでも皆さんワクワクすると思うので、その背景を解説しながら小林の文学の本質(?)を分析するとイイ本ができるだろう。
なあんて考えてみたものの、そんなマジメな新書を出す出版社は無さそうなので(岩波は反対にマジメすぎてツマラナイ)白昼夢に終りそうだけれど、・・・