横光利一「旅愁」(岩波文庫)  十重田裕一

岩波書店の文庫送付用の封筒が届いたので、充実した評論集の平成版でも編集したのかとも思って開けたら「旅愁」の(上)巻だった。
十重田裕一氏が解説を書いているので贈っていただいたということが分かり、納得しつつ感謝の気持に満たされた。
旅愁」はもうイイよ、というより横光はもうタクサンという気もしないではないが(十重田氏を始めとする数人の優れモノに付き合って横光研究会に属していたが、退職前に脱会したことだし)、この「旅愁」はタダモノではないので読み直してみたくなるテクストだ。
というのも講談社文芸文庫など現在流通しているどのテクストとも決定的に異なり、戦前の単行本を底本にしているので初めて読む作品のような気分になる。
詳しくは十重田氏の解説を読んでもらいたいのだが、戦後版のテクストはGHQの検閲が入っているので同時代の感触が払拭されてしまっている。
これから読む人は宜しく岩波文庫で読むべし、(上)巻は1160円+税金。