【読む】「ねじまき鳥クロニクル」論  津久井秀一  大川武司  宇佐美毅  千田洋幸  

 ずっと原稿の段階で読ませてもらっているツクホーシ(誰でも頼まれれば原稿チェックに応じているヨ)の「ねじまき鳥クロニクル」論をチェックしたのはいいけれど、読んだはずの作品の記憶がほとんど無いのは我ながら情けない。ハルキは進んで読もうとしたことは無かったけれど、卒論に取り上げる学生も多いのでかなり読んできたつもりではいたものの、長篇はほとんど1度読んだだけで読み返すということはない。思えば「ねじまき鳥~」に限らずどの長篇も内容を覚えてないことに気付かされた。短篇は演習授業などのテキストとして1度ならず使ったものが多いので、未読の作品集はともあれ覚えているけれどネ。

 ともあれ「ねじまき鳥~」は長すぎて読み返すわけにはいかないので、内容の読解についてはチェックできずに論文の表現を主に検討するだけに止まったヨ。書き慣れたツクホーシだけにあまり問題は無いからそれで済んだのだけどネ。ツクホーシが主に対決した先行研究に大川武司さんのものがあり、(出版と同時に編著者の宇佐美毅・千田洋幸さんから贈られた)『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)に収録されていたので読むことができた。大川さんの学大修士論文宮沢賢治論は、食わず嫌いだった賢治の未知の興味深い作品へ眼を開いてくれたもので、それ以来とても注目している人だ。

 「固有名・歴史・声――村上春樹ねじまき鳥クロニクル』論」がそれだけど、表題のとおりクリプキ(の『名指しと必然性』)に依拠しつつこの作品を「クミコという名前を見つける物語とも言い換えられる」と読んで独創的だ。続いて柄谷行人の『探求Ⅰ』や『探求Ⅱ』に基づきながら論を発展させているけれど、ちょうど「探求」あたりから柄谷を読まなくなったボクとしては、ハルキのテクストとの関係付ける大川さんの手付きを楽しむだけだったネ。楽しませる力のある人だからではあるものの、東浩紀の『動物化するポストモダン』のように大川さんの世代の聖典(キャノン)に論の展開が接続し始めると、東を意識的に無視してきたボクには理解が及ばなくなっていく感じだネ(流行りの本を皆が読んで影響されると、まさに《多様性》がなくなるしネ)。

 でも頭のイイ人が面白い道具を使ってテクスト分析する手際が楽しめるから、おススメの論文だネ。この論文集には皆さんおなじみの千田先生の論文はじめ、矢野利裕・山田夏樹・斎藤祐・早川香世・石川浩樹などといった面々の力作論文が並んでいるから、ハルキに興味のある人には絶対おススメだヨ。論文と研究史合わせて25本という充実ぶりで、(10年前の定価だけど)2500円+税という値段ならウソみたいにお買い得だネ。

 

@ 昨夜続けて宇佐美毅さんの「ねじまき鳥~」論の感想も途中まで書いたのだけど、長くなりそうだからいったん切るネ。