【状況への失言】「ひろゆき」は単なるディベート芸人じゃなかった!

 朝日新聞に月一で連載されている「論壇時評」はいま林香里という東大教授が担当している。よくもまァこんなにあれこれの論文を読んでいるものだと感心しているけど、今月はまさかの「ひろゆき」が取り上げられていたので心底ビックリだネ(2月23日)。何でマジメな朝日がそんな柔らかな話題を論じるのかと思ったら、「ひろゆき」(実名「西村博之」とは初めて知った)は芸人じゃなかったのだネ。ネットの「2チャンネル」(といっても何のこと?)の創設者というのは聞いたことあるけど、『1%の努力』という著書もあるインテリ(?)だったのだネ、それもベストセラーになっているというので驚くばかり! 高校生の間では「総理大臣になってほしい有名人」の第一位(2022年)だそうでウッソ~!という感じ。

 まさか続きだけど、あの岩波書店論壇誌『世界』でも論じられているそうで、伊藤昌亮というメディア研究者が「ひろゆき論 なぜ支持されるのか、なぜ支持されるべきではないのか」という論が載っているそうだ(3月号)。朝日や岩波がお堅いイメージから脱するものを取り上げること自体はイイと思うけど、ことは柔らかなあるいは軽い問題ではないらしい。確かに「支持されるべきでないのか」と論じられるのだから、笑っていてはいけない問題らしい。

 元々はトロサーモンというお芸人がディベート番組に推薦したと聞いたけど、1・2度見た限りでは小回りの利く才の持ち主なンだナと思っただけだネ。それがいつの間にか高校生からは総理大臣にふさわしいと評価されるほどになり(それだけ日本の首相が論理の欠落したことしか言えないことの証明だろうけど)、論壇誌でマイナス面を批判されるほどまでになっているとは、また時代遅れを自任せざるをえなかったネ。

 

 林さんの要約を引用すれば、《伊藤は、ひろゆきの世界観の核心には「プログラミング思考」、すなわちプログラマーの問題解決法を人生に応用する発想があることに注目する。彼は、この思考でもっていつまでも変わらない日本社会を支配するアナログ思考や、メディア、そして権威的リベラル知識人を痛快に「論破」する。》とのこと。また《自らを情報強者と位置付け、情報弱者を蔑む(さげすむ)ような発言で人気を博しているところがあるという。伊藤は、こうしたひろゆきの言動で、高齢者や障害者など、リベラル派が守ろうとする「本来的な意味での弱者」を差別する志向が増幅されないかと警戒する。》のだそうだ。

 ひろゆきからすれば、ボクは言うまでもなく「情報弱者」として蔑まれる存在に違いないのだけれど、ひろゆきを口先だけのウサン臭い存在としてスルーしてはいけないと思い知ったしだい。というのも、木澤佐登志という論者が『現代思想』2月号に、

イーロン・マスク、ピーター・ティール、ジョーダン・ピーターソン 『社会正義』に対する逆張りの系譜」という論文を発表し、これも林さんの要約によれば

イーロン・マスクとともに電子決済サービス企業「ペイパル」を設立するなどして億万長者となったピーター・ティエールは、革新的なテクノロジーを阻んでいる「元凶」が、1960年代に始まるニューレフト(新左翼)、そこから生まれたジェンダーや人種に重きを置く社会運動にあると断じ、派生した「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ、PC)」を憎悪しているという。》

 イーロン・マスクの名前は聞き覚えがあるものの、ピーター・ティエールもペイパルもまるで知らない「情報弱者」ながらも新左翼としては、ひろゆきに通じるティエールの憎悪に対してディベートを挑(いど)まねばならないと思ったヨ。

 (長くなったので、続きはまた。)