【読む】松本和也『戦時下の〈文化〉を考える』  硬直化した「左翼」的な研究者

 「昭和10年代〈文化〉の言語分析」という副題を持つ松本さんの新著(思文閣出版)をいただいたものの、いつもの紹介が遅れている。理由は簡単でボクが「文化」が苦手だからで、理解が十分でないまま気軽に推薦しても罪だからネ。「はじめに」や「序論」を読んでもよく伝わってこないし、具体的な論述として第5章のシンポジウム「近代の超克」を論じたものを読んでもモチーフが十分納得できた手応えが得られなかった。やっぱり「文化」に関心を持たなかったツケかなと諦めつつ「総論——日本文化の性格」を読んだら得心するものがあったので、各論が読みやすくなった気がしたネ。ボク同様に「文化」が苦手な人は「総論」から読み始めることを勧めるヨ。

 紙資源のムダ使いとしか思えない駄本が氾濫する中で、松本さんの著書だからもちろん読めば多くのものが得られるには違いないものの、今までの氏の〈文学〉論とは少々異なるのでリセットしてから臨んだ方が良いと思う。〈文学〉論としてはモノ足りないと思われても、無いものねだりになるだけだからネ。

 それにしても定価が(247ページで)1万円というのは法外な印象を否めないが、これも常に言うとおり読まなければタダのものでも高いし、読んで得られるものが多ければ多いほど安価になるのだということを念頭に熟読してもらいたいものだネ。

 

 個人的に昔から岸田國士に関心があったので、松本さんが岸田についての論を発表し始めた頃から着眼の鋭さに感心しつつ賛意を表してきたけれど、「あとがき」によれば初めて岸田國士について発表しようとしたら以下のような反応があったという。

 《発表内容以前に岸田の再評価に繋がるかたちで論じること自体認めない、という旨のコメントを年長の研究者から頂いた。》

 実に義憤に耐えないゲスがいたもンだという感想が浮かぶが、昔はこの類の硬直化した「左翼」的研究者が少なくなかったのは確かだ。ボクが小林秀雄を研究していると言うと、警戒心が表情に現れる人もいたものだしネ。今どきその種の研究者・批評家は根絶されていると思うものの、幸い安倍晋三はクタバっても世の中が右傾化する危惧は減じていないので要注意だネ。