【読む】『学芸国語国文学』第55号  扇田浩水・今藤晃裕の論を読む

 本棚に並べながら手に取ることがなかったむやみと分厚い『学芸国語国文学』の石井・黒石・大井田先生の退職記念号を先日開いてみた。イー君(今藤)の論はヒグラシゼミで発表してもらったものなので読んだことにしたけど、目次には山田夏樹・早川香世・野澤涼子といった親しい名前が並んでいたけど、まずはヒロミちゃん(扇田浩水)の論を読んでみた。太宰論なので読みやすいということもあったけど(他の人のは未読の作品についてのもの)、実は太宰は「卒業」したのでこの数年太宰論も読んでない。でもヒロミちゃんの論なら例外なので読んでみたけど、表題に「語りを読み解く授業」とあるので国語教育の論かと察してあまり期待せずに読み始めたヨ。

 それにしては「善蔵を思ふ」や「水仙」といった難物を相手に奮闘していて、十分に読むに価するので驚いたヨ。表題は「『本物』と『天才』をめぐる語りを読み解く授業」なので、知る人は「水仙」に言及されている菊池寛忠直卿行状記」の魅力を想起するだろう。「殿様」(忠直)が「本物」の剣豪なのか・それとも家来が遠慮して負けているのかをめぐって読ませる作品だが、「水仙」にはある画家が「天才」かどうかを「読み解く」挑発で誘うのが魅力だ。

 2つの作品を教材に取り上げれば、さまざまな「読み」が提出されて盛り上がること疑いなしだろうけど、授業者が自分の「読み」をシッカリ構築できていないと散漫になりがちだから難しい。扇田論はこれ等の問題をスッキリと論じきって実力を示している。皆さんも扇田論を参考にしつつ、太宰の2作品にチャレンジして楽しんだらいかが?

 

 論文が良かったのに、肩書が学大付属世田谷中非常勤講師と「非」が付いているので残念だったナ。何年か前に話し込んだ時に(悪質な先輩教員が幅を利かせているので)近いうち辞めるようなことを言っていたので、辞めることはないとクギを刺しておいたので気になるネ。辞めてしまったのなら仕方ない、本論で示している「読み解く」で今後も面白い論考を発表し続けてもらいたいネ。