【読む】中川智寛『横光利一 複層の近代』(和泉書院)

 一週間ほど前だったかに贈ってもらったものの、少しでも読んでからとノンビリかまえているうちに紹介が遅れていまった。中川智寛さんは立教大院の時の受講生以来の長い付き合いだけど、立大博士課程前期終了以降は坪井秀人さんのいる名古屋大学へ転じる時も相談に乗った人だ。立教院生は理論先行の傾向が強かったので、中川さんには馴染まなかったため実家も近かった名古屋大に移ったのだネ。名大在学中から想定以上のペースで論文を発表し続けたので驚いたものだけれど、博士号を取得したり名古屋の高校教員を経て福井大学に就職したのも驚きだったネ。

 立教時代から横光利一の研究にいそしんでいたけれど、名古屋大学在学中からは坪井さんはじめ研究室の刺激なのか、谷崎や倉橋由美子その他ボクが知らない作家についての論まで幅を広げていったのも驚きだったネ。2年前に地元の東海学園大学に転じたことを契機に、そろそろ横光利一で最初の著書を出したらと勧めたところ、昨年既に著名な和泉書院から出版の話が進んでいるとのこと。ボクとしては生涯の総括としてではなく、とりあえず学界へのデビューとしての一冊目のつもりだったけど、落掌したら横光の全生涯にわたって網羅的に論じた著書になっていてまたビックリ。

 三部構成で全23章で未読の「旅愁」論も2本含まれていたけど、初出一覧を見れば2本とも書下ろしというのだからいつの間にか「大家」の雰囲気も感じさせるもンだと驚いたヨ。全350ページを超える大著ながらも6700円+税という安さ(フツーなら1万円を超える定価になるはずのところ大学からの助成金のお蔭もあるか)というのも驚きの追加だネ。

 ボクは横光とは合わないと自認しているけど(横光研究会のも属していたけど退会した)、久しぶりに中川さんの論を導きとしながら横光を再読してみようという気にもなっているヨ。