【ヒグラシゼミ】鏡花「黒猫」論・補足

 お島の異種性を指摘したのだけど、上手く通じなかったかも。言いたかったのは、小夜・秋山・富の市が織りなす世界はよくある《情》(人情)の世界の葛藤であるが、そこに《義》(義理)に生きるお島(と小俊)が介入することによって、《情》の世界の3人を結び付けたり・切り離したりしているということだ。お島が介在しなければ、小夜と秋山は互いに思いながらも「やがて止みにけり」(「伊勢物語」)ということになったはずのものながら、お島が媒介してしまうわけである。小夜と冨の市の場合も、お島が冨の市に加担することで媒介しようとすることで劇的な展開がなされるのである。

 お島のように《義理》に生きる女や、「黒猫」と対照されながら言及される「外科室」の○○夫人の過剰さは、鏡花の作品世界に共通するものという印象が強い。